笑激の告白【文福部屋】

私って変わり者?

8月17日、大阪ミナミの千日前トリイホールで三代目旭堂南陵先生七回忌の講談会に顔を出し、ご一門の方々に挨拶し、久しぶりにじっくり上方講談を堪能。その夜、しみじみ飲みたくなり通天閣から飛田新地に近い「かんむり屋」へ。落語会の打ち上げ等で一門の弟子やよその若い衆などとわいわい飲む機会が多いが、案外一人で飲むのも好きである。東京や名古屋等ではしょっちゅう一人で飛び込みで飲みに行くが、大阪を中心に関西ではけっこう顔がさす(昔ほどではないが…)ので、一人で行く店といえば事務所近くの上六の焼き鳥こけこっこさんか和風スナック司さんぐらい、そして前出のかんむり屋さんか。
ここのマスターのもみさんがまたユニークで味のある人物。ぽんぽ娘がよく噺のマクラでしゃべるお店だ。とにかく安い。マグロのすき身150円、マグロの骨とカワの間の細い身をギューっと集めてわさび醤油で食べるのがうまい!! お好み焼200円、チャーハン150円、とにかくメニューも豊かで赤ワインは日本酒みたいに小皿の上にコップに山もりタラして200円。日本酒でもお金のないおっさんが100円も出したらコップに半分入れて出す。人情味あふれる店だ。入り口はビニールシートで実に入りやすい店、それに私のお気に入りは真向かいが銭湯なのだ。しかも露天風呂がある。私は入浴前にお好み焼きを注文しといてから汗を流してカウンターに座るのだ。
さあ、この日も「かんむり屋」へ行った。しかし、向いの銭湯は休み!!ガビ~ン。でも大丈夫、50mほど歩けばもう一軒のお風呂がある。今夜はここに入ろう。そしてここで「事件」が起こった!! 番台のお姉さんが私を見て「あー、テレビに出てる人や!!」そこで私は「どうも」とか「おおきに!!」と一言いえば問題なかったのだが、シャイな私はプライベートで顔がさすのがものすごく苦手なのだ。知ってくれていて当然悪い気はしない。しかし私は元来、吃音者でもあるし田舎もんのはずかしがりで、電車に乗る時も帽子をかぶるかサングラスをかける。家族で食事に行ってもよっぽど馴染みでない、まして、はじめての所はまず「文福」とばれないようにしている。(昔ほど顔はささんけどテレビも出てないし…)何も気どっていること等もうとうない。ただただ気を使いすぎるのだ。そのかわり、仕事となれば絶対手を抜かず大熱演し、その後の交流会やふれあいも心から楽しんでつきあわせてもらうのだ。
さて、その番台のおねえさんに対して私は「いやいやそんなん関係ない!!早よ石鹸ちょうだい!!」と言って湯船につかった。さあこれで終われば何でもない…。私はそれからずっと「あ~悪かったな~、もうちょっとちゃんと言えば良かったな~」と反省しきり。帰りにフォローしようと「ええ湯でしたわ(笑)私この近くの店へたまに来まんねん」と愛想を振りまくと「文福さんでしょ、がっかりやわ。私も相撲好きやしあんな言い方ないわ。私ラジオに投稿したろかと思ったわ」とえらい怒ってはる。「いや私もファンならありがたいんでっけど、なにせシャイやからあんな言い方したんですわ。でも、あんたが思てるような人間なら黙ってシューっと帰りまっしゃろ!! 私、風呂の中でずっと気にしてたから、帰りこないしてまんねん」ところが、なかなかのガンコ者、いや失礼。
「他にも芸人さん来はるけどえらいちがいやわ」そこで私も「そんな芸人に負けへんわい」と腹で思ったけど、ぐっとおさえて外へ出た。おそらく脱衣場の人たちに私のことをボロクソに言うてるやろな~と思いながら(わしゃ被害妄想か!!)なかなか「かんむり屋」さんへ入る気にならず、まわりをウロウロ。やっと入ったら常連さん達が「師匠!!どないしましてん?」飲みながらいきさつを話すと「そんなん気にせんでよろしいがな!!プライベートやがな」
それでも私の気がおさまらず、私は店を飛び出しました。手に「いちもん新聞」やら落語会のチラシ、彦八まつりのポスターをもちながら…。「今晩は!!」おもいっきり愛想を振りまいて再度番台へ。「何しに来たん?」「風呂に入りまんねや」「さっき入ったやん」「ええやんか、何べん入っても…」もう一度風呂に入り、いちもん新聞を渡して心から「おおきに!!」と言って出ました。おねえさんもけだるい声で「ありがとうございました~」その後「かんむり屋」で飲んだ飲んだ~。まあ、自分の気休めかも知れんけど番台のおねえちゃんわかってや!! 私の気持ちを!! それにしても、私は自然体で振るまえる誰とでもすぐとけこめる芸人さんうらやましいわ!! もちろん私もうらおもてのある人間とはちがいまっせー。けど、どこかに幼い頃からの対人恐怖症、赤面症、どもりを残してることも確かな変わり者ですわ。