真のタニマチ最後の「花道」

真のタニマチ最後の「花道」
一年納めの九州場所の番付発表(2日)の前日、一人の大相撲愛好家が天に召されました。長い間、大阪市内でちゃんこ料理店を経営されていた萩原常弘さん(78)。横綱曙の名付け親であり、私にとっては「相撲道」の師匠でもありました。
1990年春場所。破竹の勢い、負け越しなしで新十両に昇進した曙の8日目の相手は、82キロの「超小兵」維新力でした。立ち合い、一瞬の突き落としで巨体がゴロリン。キツネにつままれた表情の曙に対し、維新力はポーカーフェースで勝ち名乗りを受けました。その夜、私は兄弟分の維新力を連れて、萩原さん(通称、萩屋のおやっさん)の店へ。「師匠 ! ! ここは、曙の日本のお父さんの店でしょ。まずいっスよ」「かめへん、かめへん」店内で恐縮している維新力に対し、萩原さんは「維新力関、曙に相撲の奥深さを教えたってくれておおきに ! これ授業料でっせ ! ! 」と、ご祝儀を用意してくれていました。
その後、曙が横綱になり、部屋が大きくなるにつれて、表に出ずに陰から、そして心から若い衆の面倒を見る姿に、「真のタニマチ」を感じました。
九州場所を前に、各界関係者に迷惑をかけたくない、家族だけでひっそりと送ってほしい、というおやっさんの思いでしたが、曙さんだけは呼ばれました。彼は、九州のプロレス会場からジャージー姿で飛んできました。そして、ひつぎを持って、相撲をこよなく愛した恩人の最後の「花道」を飾ったのでした。合掌。

(2009.11.13 読売新聞 夕刊・カラー面)